「沸騰したお湯がかかった」「高温の鍋に触れてしまった」など、日常生活の中で起こりやすいやけど。傷の深さによって重症度が異なり、ひどい場合は治療に数ヶ月かかったり、後遺症が残ったりすることもあるため、やけどした際には迅速な応急処置が必要です。
本記事では、適切なやけどの応急処置をはじめ、やけどの重傷度と病院を受診する目安、やけどの跡を早く治すためのケア法について解説します。
1.火傷(やけど)の応急処置
やけどしても痛みが少なかったり、水ぶくれが小さかったりすると放っておいてしまいがちですが、その間にやけどの範囲や深さが広がり、見た目以上に深く損傷してしまうこともあります。やけどした際は、なるべく早めに以下の応急処置を行うようにしてください。
流水で冷やす
痛みを軽くし、やけどの範囲や深度を悪化させないよう、とにかく冷やすことが大切です。冷たい水道水で痛みが和らぐまで15~30分程度冷やしましょう。その後、病院を受診する場合は、冷たく濡らした清潔なタオルで包んだ氷のうなどを使い、患部を冷やし続けます。
また、衣服の上からやけどした場合、脱がずに服の上から水をかけるようにしましょう。炎症部分や水ぶくれを傷つけることを避けるほか、脱衣中にやけどが深くなることも防ぎます。
ただし、子どもや高齢者の方がやけどした際は、冷やし続けると低体温になることもあるため注意してください。
水ぶくれをつぶさない
やけどによる水ぶくれは、自分でつぶしてはいけません。水ぶくれは細菌の侵入を防ぐ役割があるため、つぶすことで症状が悪化し、感染のリスクも高まります。
水ぶくれは薄い表皮で包まれていて破れやすいため、水ぶくれができた場合は絆創膏やガーゼで保護し、できるだけ早く皮膚科や形成外科を受診してください。
装飾品を外しておく
指輪や時計などの装飾品は、患部が腫れて外しづらくなったり、血行を悪くして回復を妨げたりすることもあるため、早い段階で外しておきましょう。
モイストヒーリングでケア
モイストヒーリングとは、傷口から出てくる「滲出液(しんしゅつえき)」を利用し、患部を湿った状態に保つことで傷を治す療法のことです。ヒリヒリする症状を和らげて、皮膚の回復を促す効果が期待できます。
このモイストヒーリングは、皮膚の色が赤くなっているだけの軽度のやけどであれば有効です。流水による処置後、ハイドロコロイド素材の保護剤を患部に貼り、傷口から感染症を起こさないよう経過観察もしっかりと行いましょう。保護剤には絆創膏タイプやロールタイプなどがあるため、患部の範囲に合わせて選ぶことができます。
2.火傷(やけど)の段階と重症度
やけどには種類があり、熱湯や火などが原因で起こる「高温やけど」のほか、「低温やけど」と呼ばれるやけどもあります。これは、カイロや湯たんぽ、電気カーペットなど、44~50℃のものに長時間接触することが原因で起こり、熱さや痛みも感じにくいため気づかないうちに症状が進行していくのが特徴です。
また、やけどは傷の深さによってⅠ度・Ⅱ度・Ⅲ度の3段階に分類されています。やけどの程度によって症状は異なり、速やかな医療機関の受診が必要なケースもあります。
Ⅰ度
表皮(=皮膚の表面)のみのやけどで炎症は浅い状態です。赤みとヒリヒリとした痛みを起こします。
病院での処置はワセリンなどの軟膏を処方されることが多く、ほとんどの場合1週間程度で傷跡を残すことなく治ります。
Ⅱ度
表皮の下にある真皮にまで火傷が及んだ状態です。強い痛みを伴い、皮膚が赤く腫れて水ぶくれができます。Ⅱ度の場合は、やけどの深度によりさらに「Ⅱ度浅達」と「Ⅱ度深達」に分けられます。
【Ⅱ度浅達】
いわゆる「軽度のやけど」と呼ばれるのは、このⅡ度浅達までのやけどを指します。真皮の浅い層まで炎症が進んでおり、ただれと強い痛みを伴い、水ぶくれの底が赤くなっている状態です。
病院では外用薬を塗布して患部が乾かないよう保護するなどの処置が行われます。大きな水ぶくれができている場合は、内容物を吸引し、消毒した後、ガーゼや包帯などで患部を保護します。治療期間は2週間程度で、跡も残らず治りやすいでしょう。
【Ⅱ度深達】
Ⅱ度深達では、真皮の深い層まで炎症が進んでおり、水ぶくれの底は白く痛みを伴いません。
治療には3~4週間ほどかかり、みみず腫れのように皮膚が赤く盛り上がる「ケロイド」や、皮膚が分厚く硬くなる「肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)」として跡が残ることもあります。また、病院では必要に応じて、壊死組織の除去や植皮手術を行うケースもあります。
Ⅲ度
皮膚全層、またはそれ以上にやけどが及んでいる状態です。表皮は硬くなり、灰白色化を起こします。
Ⅱ度深達同様、植皮手術などの外科処置が必要になるケースが多いでしょう。治療には3ヶ月ほどの長期間を要し、Ⅲ度になると傷跡も残りやすくなります。
3.医療機関を受診した方が良い場合
基本的に、Ⅱ度以上のやけどを負った場合は皮膚科や形成外科を受診するようにしましょう。そのほか、以下のケースでは速やかな受診が必要となります。
- 広範囲のやけど(手のひらを体表面積の1%と考えた時、大人であれば全身の20%以上、子どもは10%以上にやけどを負っていた場合)
- やけどしたのに痛みを感じない
- 水ぶくれがある(水ぶくれが破れてしまった)
- 顔や関節のやけど
- 子どもや高齢者
- 低温やけど
- 溶剤などによる化学やけど
患者の年齢や患部の部位、やけどの原因によって、症状の現れ方や重症度は異なるため、応急処置後に症状が軽減された場合でも、万一に備えて受診しておくことをおすすめします。
4.応急処置後に火傷(やけど)の跡を早く治すためのケア
応急処置を行ったのち、軽度のやけどであれば傷跡は次第に改善していきますが、目立つ場所のやけどは早めに治したいものです。やけどによる傷跡のセルフケアを4つ紹介します。
紫外線対策を行う
やけど後は患部に色素沈着が残ることがあります。通常数カ月程度で改善しますが、この間紫外線にあたってしまうと色素が残りやすくなるため、改善するまで患部の紫外線対策は徹底して行うようにしましょう。
ヘパリン類似物質を含む保湿剤を使用する
傷跡部分は乾燥しているとかゆみを生じやすく、掻いてしまうと悪化の原因になります。乾燥対策には、保湿剤「ヘパリン類似物質」がおすすめです。保湿効果はもちろん、抗炎症効果や血行促進効果もあるため、皮膚を保湿して柔らかくし、炎症を抑えてターンオーバーを促してくれます。市販のものを使用する場合は、ドラッグストアで薬剤師に相談してみましょう。
副腎皮質ホルモン含有の外用薬を使用する
軽度のやけどであれば、ステロイド剤などの副腎皮質ホルモン含有の外用薬で炎症を抑えることもできます。ただし、ステロイド剤の長期使用はNG。改善後も使い続けると、やけどの治りが遅くなり、感染症を起こすリスクもあるため、必ず医師の指示のもと短期的に使用しましょう。
ケロイドの改善には内服薬も効果的
ケロイドに対する治療薬として、「トラニラスト」という内服薬が日本で唯一、保険適用で処方されています。トラニラストはケロイドが肥大化するのを防いで、赤みやかゆみを抑える効果が期待できる内服薬です。服用が可能かどうか、医師に相談してみてください。
5.火傷(やけど)は正しい方法で迅速に処置を
やけどの程度にかかわらず、まずは適切な応急処置を速やかに行うことを覚えておきましょう。軽度のやけどであればセルフケアで改善することもできますが、間違ったケアは症状を悪化させてしまうことも。判断に迷った場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。