しっかり睡眠を取ったつもりなのに、「朝起きてもすっきりしない」「日中に眠くなる」という方は少なくないでしょう。睡眠の質が低いと注意力や集中力が低下したり、生活習慣病のリスクが高まったりと、心や身体の健康状態に大きく影響します。
本記事では、睡眠のメカニズムをはじめ、睡眠の質が下がる要因やそれによる健康リスク、睡眠の質を上げるために実践したい5つのポイントについて解説します。
1.睡眠のメカニズム
私たちの睡眠は、「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」と呼ばれる2つの睡眠段階によって構成されており、睡眠中はこの2つが交互に現れることで、浅い眠りと深い眠りを繰り返しています。
レム睡眠は「夢を見る睡眠段階」と言われ、体は休んでいても脳は活発に働き、記憶の整理や定着が行われている状態です。一方、ノンレム睡眠は脳や交感神経も休息し、脳の疲労回復にとって欠かせません。
入眠するとまずノンレム睡眠から始まり、一気に深い眠りにつきます。そこから1時間ほど経過した頃、徐々に眠りが浅くなってレム睡眠へと移行します。その後再びノンレム睡眠、レム睡眠を反復し、このような約90分の周期がひと晩に3~5回繰り返されるようになっています。
2.質の良い睡眠とは?
成人の適正睡眠時間は約6~8時間と言われています。睡眠の質を上げようと睡眠時間を過度に取ると、かえって睡眠の質を悪化させ、睡眠によって得られる満足感を低下させる恐れがあります。
睡眠の質と聞くと睡眠時間ばかりに注目してしまいますが、重視したいのが「睡眠の質の高さ」です。厚生労働省による「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」を参考にすると、個人差はあるものの、以下の状態であれば「質の良い睡眠が取れている」と言えます。
- 睡眠中に規則正しいリズムが保たれ、昼夜のメリハリが明瞭
- 必要な睡眠時間が取れ、日中に眠気や居眠りが生じず、心身の状態も良好である
- レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルが規則的で途中で覚醒することが少ない
- 目覚めがすっきりとしている
- 目覚めてからスムーズに行動できる
- 就寝してから入眠までに過度の時間を要しない
- 睡眠で熟睡感を得られる
- 日中、過度の疲労感がなく、意欲なども高い状態にある
良い睡眠には「睡眠時間」と「睡眠の質の高さ」のバランスが重要になります。睡眠時間をコントロールしながら、日々の生活習慣を見直すことで睡眠の質も高めていきましょう。
参考:厚生労働省 「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」
3.睡眠の質が下がることによるリスクと要因
睡眠時間があまり取れず、睡眠の質も低下すると注意力や記憶力、作業効率の低下につながります。集中力がなく、意欲も湧きづらい状態になるため、仕事でのミスが増え、車の運転などでも事故を起こしやすくなるでしょう。
睡眠不足はストレスホルモンと強い結びつきがあり、感情のバランスを崩しやすくなる原因の一つです。「些細なことでイライラする」「気分が落ち込むことが増えた」など、次第に不安感や焦燥感を強く感じるようになることも。ひどい場合には「うつ病」といった気分障害につながる可能性もあります。
また、睡眠不足が続くと、食欲増進ホルモン「グレリン」を増やして、食欲抑制ホルモン「レプチン」の分泌を低下させるため、食べ過ぎを招いて肥満につながることも。高血圧や糖尿病を発症しやすくなるほか、これら病気を発端に動脈硬化を起こし、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な病気に発展するリスクもあります。
このように、睡眠の質が下がることは心身の健康を阻害する危険性をはらんでいることを覚えておきましょう。ここからは、睡眠の質を下げる原因を3つ紹介します。
生活習慣
夜更かしは昼夜のサイクルと体内時計のリズムを狂わせ、寝つきや目覚めの悪さ、睡眠中に途中で目が覚めてしまうといった問題を生じさせる原因です。熟睡できないため睡眠による満足感はほとんど得られず、睡眠の質は低下してしまいます。
また、日中あまり運動しないという場合も安眠は得られにくいでしょう。1日中ゴロゴロしていると、運動量が足りないために体は疲労せず、入眠までに時間がかかりやすくなります。ただし、寝る直前の激しすぎる運動は、体の疲労感は感じるものの、睡眠に必要な副交感神経の働きを妨害するため逆効果です。
食生活における原因としては、カフェイン、アルコール、ニコチンの摂りすぎが考えられます。これらの嗜好品には覚醒効果があり、脳の興奮を高めて眠りを浅くします。リラックスやストレス軽減を目的に「寝酒」をする人もいますが、寝つきは良くなっても、アルコールが分解され排出される過程で覚醒しやすくなるため、質の良い睡眠とは言えないでしょう。
睡眠環境
寝室の温度や湿度が適切でなかったり、光や音が気になったりする環境では寝つけないという方も多いかもしれません。とくに光や音は睡眠の質を低下させるストレスにもなり、騒音や明るい照明は眠りを妨害します。
スマホやタブレットの画面から発せられるブルーライトも、睡眠時に分泌される「メラトニン」を抑制させる作用を持つため、体が休息モードにならず寝つけなくなるため要注意です。
このほか、枕やマットレスの高さや硬さがフィットしていないなど、寝具が体に合っていないことでも体は疲れやすくなり熟睡感を得づらくなります。
ストレス
睡眠は副交感神経が優位になることでもたらされますが、ストレスを感じると交感神経の働きが活発になり体が休息モードに入りません。寝つきが悪くなるほか、脳の疲労を回復するノンレム睡眠も少なくなることで、眠りが浅くなって夜中に何度も目が覚めやすくなります。
4.睡眠の質を上げる5つの方法
日頃から規則正しい生活習慣を意識することで、セルフケアでも睡眠の質を上げることができます。ここでは、今日から実践できる生活習慣や睡眠習慣を5つ紹介します。
朝日を浴びる
朝起きたらまずはカーテンを開けて、日光を浴びる習慣を身に付けましょう。朝日を浴びることで体内時計はリセットされ、睡眠と覚醒のリズムが整います。また、日中にも光を浴びることで「メラトニン」の分泌が促され、体内時計のメリハリを高める効果が期待できます。
朝食はしっかりとる
朝食を食べることも体内時計の調整に効果的です。とくに卵やさけ、豚ロース・赤身などには、体内時計のリセット効果を持つ「タンパク質」が含まれているため積極的に摂るようにしましょう。
タンパク質には「トリプトファン」という成分が豊富に含まれており、睡眠をつかさどる「メラトニン」の生成元として利用されます。トリプトファンからメラトニンを生成するまでには約14~16時間ほどかかると言われているため、朝食でタンパク質をとることで就寝時に眠気が促されやすくなります。
また、朝コーヒーを飲む人はカフェインの摂取量にも注意が必要です。先述の通り、カフェインには覚醒作用があるため、1日を通してカフェインの摂取量は400mg以内に抑えるよう意識しましょう。
日中に適度な運動を行う
1回の運動だけでは効果が弱く、継続した運動習慣を身に付けることが大切です。激しすぎる運動はかえって睡眠を妨げるため、ウォーキングや軽いランニングなどの負担がかかりすぎない有酸素運動を行いましょう。夕方から就寝3時間ほど前までに運動を行うのが効果的で、さらによい睡眠を確保できるはずです。
就寝1時間前に入浴する
入浴は副交感神経を活発にさせて、睡眠の質の向上に役立ちます。体の深部温度が上がるため、体がぽかぽかと温かくなって寝つきの良い状態に整えます。就寝1時間くらい前にぬるめのお風呂にゆっくり浸かり、心身の緊張をほぐしましょう。
就寝前はスマホやタブレット端末を見ない
スマホやタブレット端末が発するブルーライトは体内時計を狂わせるため、スマホやタブレット端末の使用は就寝の1~2時間前から控えることをおすすめします。また、同時に部屋の照明を徐々に暗くしていくことで入眠しやすい睡眠環境をつくることも効果的です。
5.睡眠の質を上げるために毎日の習慣を見直そう
睡眠時間が極端に短かったり、睡眠自体の質が低かったりすると良い睡眠とは言えません。このような状態を続けてしまうと、気分障害や生活習慣病の発症リスクを高めるため、今できることから少しずつ生活習慣や睡眠習慣を改善していきましょう。