さまざまな病気の早期発見を目的に行われる健康診断。健康診断には自分の体の状態を知り、病気そのものを予防するという意味合いがあるため、定期的に受診することが大切です。ここでは、健康診断の必要性と、健康診断前日~当日にかけて気をつけるべき注意点を詳しく解説します。
1.そもそも健康診断はなぜ必要?
健康診断は、現在の体の状態を知り、さまざまな病気の早期発見・治療、病気を未然に防ぐことを目的に行われます。将来起こりうる病気や、自覚症状のない疾患のサインを見逃さないためには定期的な受診が肝心です。
ただし、健康診断の結果を良くしようとして、極端な食事制限をしたり、急に激しい運動をしたりすると、正確な診断結果が得られず不調のサインを見逃してしまうことにもなりかねません。普段通りの生活を続けながら、健康診断前日、当日の注意事項を守ることで、正確な結果を得られるように努めましょう。
法定健診と任意健診
健康診断の分類には「法定健診」と「任意健診」があります。
法定健診
「法定健診」は労働安全衛生法などの法律を根拠に行う定期健康診断のことで、乳児・妊婦・市民・従業員など、ステータスごとに検査項目が定められています。
会社員や派遣社員など事業者に雇用されている人には、1年以内ごとに1回、定期的な健康診断を受ける義務があります。パートやアルバイトでも、1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者と比較して4分の3以上である場合は法定健診の対象です。
成人の法定健診では主に問診・身体測定・視力検査・聴力検査・血圧測定・便および尿検査・胸部X線検査など、十数個の項目を検査します。また、40歳以上の受診者には「特定健康診査(いわゆるメタボ健診)」として、血液検査・肝機能検査・血中脂質検査・空腹時血糖・心電図検査などが加わります。
なお、会社に属さない個人事業主やフリーランスの場合、健康診断を受ける義務はありませんが、病気の早期発見や治療のため、自らの意思で定期的に健康診断を受けることをおすすめします。
任意健診
法令で定められた「法定健診」に対し、個人の意思で受けるものが「任意健診」です。人間ドックや、法定健診の際にオプションで選択できる胃カメラ、アレルギー検査など、自身の健康リスクを知るための精密な検査がこれに当たります。
心臓病や高血圧、脳卒中、がんなどの疾患は、加齢や喫煙などの様々な環境因子のほか、遺伝的な要因も発症に影響すると考えられています。親や祖父母、兄弟姉妹などの近親者にこれらの疾患がある場合は、積極的に任意健診を受けましょう。費用は自己負担となるため高額ですが、加入している健康保険で補助を受けられるケースもあります。
ちなみに、国が推奨するがん検診は5種類あり、それぞれに対象年齢が定められています。がん検診には、早期発見・早期治療が可能になるというメリットがあると同時に、不必要な検査で身体的、精神的苦痛を被るリスクもあるため、自身の年齢や自覚症状の有無を考慮して、リスクより利益が上回ると判断できる検査を受診することが重要です。
種類 | 対象者 | 検診間隔 | 検査項目 |
---|---|---|---|
胃がん | 50歳以上※1 ※1:胃部X線検査に関しては40歳以上に実施しても差し支えない |
2年に1回※2 ※2:胃部X線検査に関しては年1回実施しても差し支えない |
問診に加え、胃部X線検査または胃内視鏡検査のいずれか |
肺がん | 40歳以上 | 1年に1回 | 質問、胸部X線検査および喀痰細胞診(喀痰細胞診は質問結果に応じて実施) |
大腸がん | 40歳以上 | 1年に1回 | 問診および便潜血検査 |
乳がん | 40歳以上 | 2年に1回 | 問診および乳房X線検査(マンモグラフィ) |
子宮頸がん | 20歳以上 | 2年に1回 | 問診、視診、子宮頸部の細胞診および内診、必要に応じてコルポスコープ検査 |
健診と検診の違いは?
同じ読み方をする「健診」と「検診」ですが、意味は全く異なります。「健診」は健康診断または健康診査の略で、体の健康状態を総合的に確認するプログラムを示します。一方「検診」は特定の疾患を検査するために体のある部位を検査することを指します。よって、「検診」は眼科検診、耳鼻科検診のように、検査対象のパーツを限定して使われることが一般的です。
2.健康診断の前日に気をつけること
健康診断で正確な検査結果を得るには、健診機関の指示を守って検査に臨むことが重要です。ここでは、一般的な定期健康診断の前日に気をつけるべきことを6つ紹介します。
食事
食事は検査結果(血糖値や中性脂肪の値、腹囲など)に影響を及ぼすため、健康診断の10時間前までに済ませることが基本です。検査が午前中の場合は、前日の21時までを目安に夕食を済ませるとよいでしょう。脂っこいものや塩分の高い食べ物は避け、体の調子を整えておきます。
胃カメラやバリウム検査が対象の人は次のような食材にも注意してください。食物繊維の多い根菜類・海藻類・キノコ類・玄米は、消化が悪く、繊維が胃の中に残りやすいため、胃カメラ前は避けるのが望ましいでしょう。また、バリウム検査を受ける場合も、チーズやヨーグルトなどの乳製品は摂取を控えるべきとされています。乳製品に含まれる成分が胃の粘膜に残り、レントゲン撮影に影響する恐れがあるためです。
前日の食事のおすすめは、消化の良いうどんやおかゆなどの和食です。お腹の調子を崩さないよう、間食も少量に留めておきましょう。ただし、体重や腹囲を気にして絶食することは禁物です。
運動
健康診断の前日は、過度な運動は避けてください。高強度の筋トレ、テニスや水泳などを行うと、尿酸値や肝機能、尿蛋白の検査値が通常より高くなり、正しい結果を示さないことがあります。前日はなるべく運動は控え、体を休めておきましょう。
飲酒・喫煙
健康診断前日の飲酒と喫煙もNGです。飲酒は肝機能に、喫煙は血圧の検査結果に影響を及ぼすため、必ず控えてください。正確な検査結果を得るためにも、健康診断前日~当日は休肝・禁煙を心がけましょう。
睡眠
睡眠不足は、血液検査や尿検査に影響することがあります。そのため、健康診断前日は、夜更かしせず、早めに休んで体調を整えてください。
しっかり睡眠をとるには、前日の午後からコーヒーなどの覚醒作用のあるカフェイン入り飲料を控えたり、スマホやパソコンの使用も就寝2~3時間前までに済ませたりする対策が効果的です。また、就寝の1.5時間前には、39~40℃ぐらいのぬるめのお湯に10~15分程度浸かるのもおすすめです。副交感神経を優位にすることで、入眠しやすくなります。
薬の服用、サプリメントの摂取
前日に薬やサプリメントを摂取すると血液検査や尿検査の数値に影響が現れる懸念があります。中でも、ビタミンCは水溶性のため、摂り過ぎると尿検査の数値に影響が出やすいです。健康診断前日は、持病の薬以外の摂取を控えましょう。
持病の処方薬がある場合は健康診断前日も通常のタイミングで服用し、当日の服用については主治医や検査機関の指示に従ってください。問診などで薬について聞かれることもあるため、健康診断当日はおくすり手帳を持参すると安心です。
その他の生活行動
特に男性は、健康診断前日の性行為および自慰行為は、尿蛋白(+)となることがあるため控えるようにしてください。また、女性の場合、生理中に尿蛋白(+)、潜血(+)となる可能性が高いため、生理中の尿検査・便の検査は受けられません。
3.健康診断の前日についてよくある質問
ここまでに紹介した健康診断の前日に気をつけるべき行動を踏まえて、よくある質問についてお答えします。
どうしてもお腹が空いてしまった場合はどうすればいい?
健康診断において血液検査を受ける場合は、前述の通り食事を制限しなければなりません。糖分や脂質を含まない水やお茶であれば健康診断の当日まで摂取しても問題ないため、水分補給で空腹を紛らわすことをおすすめします。
健康診断の当日にコーヒーを飲んでもいい?
健康診断を受ける病院・クリニックによって指示が異なるケースがありますが、基本的には糖分や脂質を含まないブラックコーヒーであれば、健康診断の当日に摂取しても問題ありません。ミルクや砂糖を入れたコーヒーを健康診断の前に摂取すると、血液中の血糖値が上昇し、検査結果に影響をおよぼすため注意しましょう。
健康診断の前日や当日にプロテインを摂ってもいい?
プロテインはタンパク質を多く含むため、腎機能の数値に影響する可能性があります。日常的にプロテインを摂る習慣がない方は、健康診断の前日や当日に摂取するのは控えましょう。反対に日常的にプロテインを摂っている方は、健康診断を受ける病院・クリニックに摂取してよいか確認することをおすすめします。
前日にお酒を飲んでしまっても大丈夫?
前述の通り、お酒に含まれるアルコール成分は、肝機能の数値をはじめ、血糖値や尿酸値にも影響をおよぼす可能性があります。正しい検査結果が得られないため、健康診断の前日にお酒を飲むのは控えてください。万が一、前日の禁酒を守れなかった場合は、病院やクリニックにその旨を伝えましょう。
前日はいつもより睡眠を取ったほうがいい?
睡眠不足の状態は、血液検査や尿検査に影響をおよぼす可能性があります。健康診断前日には十分な睡眠時間を確保することが大切ですが、一方で普段よりも長く睡眠をとる必要はありません。健康診断は日常生活における健康状態に問題がないかを検査するものなので、普段通りの生活リズムで過ごすことを意識しましょう。
4.健康診断当日の注意点
前日の注意点に加えて、健康診断当日には次の3つを守りましょう。
間食をしない
前述の通り、食事は健康診断の10時間前までに済ませることが基本です。健康診断が午前の場合、当日の朝食はもちろん、間食も摂ることができません。固形物として胃に入らない飴やガムでも、血糖値などに影響が及ぶため控えましょう。
健診の時間が午後の場合、朝7時頃までの朝食は許容されるケースもありますが、その場合も軽めの食事を意識してください。
飲み物もできるだけ控える
健康診断当日は、検査の2~3時間前までなら、水または白湯をコップ1杯(200mL)程度であれば飲んでも問題ありません。コーヒーやジュースなど糖分を含む飲料は、検査結果に影響が及ぶため控えましょう。
時間にゆとりをもって行動する
健康診断前に慌てたり、走ったりすると血圧や心拍数が跳ね上がることがあるため、必ず時間にゆとりをもって行動しましょう。普段の状態に近い血圧を測定するためには、血圧測定までにリラックスしておくことが大切です。
問診表や採尿、検便などの持ち物は忘れやすいため、事前にしっかり用意しておくことをおすすめします。
5.健康診断前日の過ごし方は、正しい結果を得るために重要
健康診断は、あくまでも現在の体の状態を知るためのものです。前日はいつも通りリラックスして過ごし、当日は注意事項を守って正しい検査結果が得られるように努めましょう。また、健康診断の結果が出たら、数値に応じて生活習慣の見直しや、より精密な検査を受けることで病気の早期発見につなげることが重要です。