湿疹とは、皮膚表面(表皮)に炎症が起きる皮膚疾患の総称です。湿疹の症状の度合いや経過、そして原因には様々なパターンがあります。今回は、湿疹の基礎知識から他の皮膚症状との違い、自分でできる湿疹の予防法、市販薬による治療法について詳しく解説します。
1.湿疹とは?
湿疹は皮膚表面(表皮)に起きる炎症の総称で、赤みや水ぶくれなど見た目の変化のほかに、かゆみやヒリヒリ感を伴うこともあります。原因は様々で、大きく外的要因と内的要因に二分されます。
外的要因では刺激に反応して起こる「接触皮膚炎(かぶれ)」、内的要因では生まれつきの体質による「アトピー性皮膚炎」が多いと言われています。
2.湿疹の症状
湿疹の症状の強さや経過は様々ですが、多くの場合、図の「湿疹三角」の矢印に沿って進行します。
- 赤み:表皮に近い血管の拡張により、皮膚が赤く見える状態です。紅斑(こうはん)とも言います。
- プツプツ:皮膚の表面が小さく盛り上がった状態です。プツプツ、ブツブツと丘のような盛り上がりが発現するため丘疹(きゅうしん)とも言います。
- 水ぶくれ:皮膚内、または皮膚の下に透明な液体がたまり、皮膚の表面が盛り上がった状態です。小水疱(しょうすいほう)とも言います。
- 膿をもった水ぶくれ:水ぶくれの中身が膿(うみ)になり、色も透明ではなく白や黄色に変化します。この状態を膿疱(のうほう)とも言います。
- びらん:水ぶくれや膿疱が破れて表面の皮膚が剥がれ落ち、患部が分泌物でジュクジュクとただれている状態です。
- かさぶた化:患部から出た膿や液体が固まって皮膚表面にくっつき、かさぶたのようになっている状態です。結痂(けっか)とも言います。
- 皮膚片のはがれ:皮膚表面に異常に蓄積した角質層が、皮膚からはがれ落ちた状態で、落屑(らくせつ)とも言います。
湿疹は上記の経過をたどり、治癒することがほとんどですが、慢性化することもあります。慢性化した場合に見られる症状は次の2つです。
- 皮膚が厚くなる
- 色素沈着で患部に黒く痕が残る
3.湿疹の原因
(アウトドア・レジャーでは、山林に自生するヤマウルシに注意)
湿疹の原因は様々です。今回は外的要因と内的要因に大きく分け、それぞれ代表的なものについて説明します。
外的要因
湿疹は外部からの刺激により起こる場合があります。代表的なものについて見ていきましょう。
刺激物
日常生活では洗剤などに含まれる界面活性剤、クリーニング溶剤などが湿疹の原因となることが多いようです。
毒性を持つ物質や強酸・アルカリなどの化学物質などは、1回の接触ですべての人が皮膚に炎症を起こしてしまいます。このように刺激が強い物質により起きた接触皮膚炎を「刺激性接触皮膚炎」と呼びます。
アレルギー反応を引き起こすもの
肌の表面にアレルギー反応を引き起こす物質は日常のあらゆるシーンに存在します。ゴムや繊維製品、プラスチック製品に使用されるホルムアルデヒド、着色剤、日焼け止めに含まれる紫外線吸収剤などはその代表例です。
また、抗菌薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの外用薬がアレルギー反応による湿疹の原因となることも。特に、アトピー素因(生まれつき肌が荒れやすい体質)がある場合はアレルギーを起こしやすく、ハウスダストやダニ、花粉などで炎症を起こすこともあります。
そのほか、下記に含まれる物質によりアレルギー反応が出ることもあります。
- 化粧品
- 染毛剤
- 薬用歯磨き粉など、一部の医薬部外品
- 食物(とげのあるもの、アレルギーを起こす抗原を持つものなど)
- 植物(ヤマウルシや銀杏の実など)
- 金属類(アクセサリー、歯科治療に用いるものなど)
- 光線(日光)
食べ物による湿疹は、調理人や農業従事者、主婦などに多く見られます。また、職業によっては、頻繁に触れる物質が原因となり湿疹が出ることも。このような職業に起因する湿疹を「職業性湿疹」と分けて呼ぶこともあります。
内的要因
湿疹の原因は、外部からの刺激だけではありません。体質によって湿疹を起こしやすくなっている場合があり、これを内的要因と呼びます。
年齢
乳幼児や小児、高齢者は皮脂の分泌が少なく、肌が乾燥しやすい状態です。皮脂の分泌が少ないと、皮膚のバリア機能が低下してしまうため、湿疹を起こしやすい状態に陥ります。
体質
アレルギー体質やアトピー素因がある場合などは、アレルギー反応を引き起こすIgE(アイジーイー)抗体を産生しやすくなっています。IgE抗体を産生しやすいと、その分アレルギー性接触皮膚炎を起こしやすいと言われています。
4.湿疹と他の皮膚症状との違い
湿疹と蕁麻疹(じんましん)、痒疹(ようしん)の違いについて解説します。
湿疹と蕁麻疹(じんましん)の違い
湿疹の多くは接触皮膚炎(かぶれ)であり、皮膚に原因物質が触れて起こるものです。一方、蕁麻疹(じんましん)は皮膚への接触以外が原因で皮膚に症状が起こります。
どちらもかゆみや赤みが出現する点は似ていますが、湿疹は赤みやプツプツが段階的に現れ、時間をかけて治癒するのに対し、蕁麻疹はぷっくりとした赤い膨らみが急に現れ、数時間以内に跡形もなく消えるという経過に大きな違いがあります。
蕁麻疹の原因は基礎疾患や感染症、ストレスなど様々です。時間は経てば症状が落ち着くため医療機関の受診をためらってしまいがちですが、繰り返し症状が出たり、範囲が広がったりしている場合は我慢せず皮膚科を受診しましょう。蕁麻疹とともに呼吸が苦しい、まぶたや唇が腫れるなどの症状が出た場合は、すぐに皮膚科や内科で診察を受けてください。
湿疹と痒疹(ようしん)の違い
痒疹(ようしん)は非常に強いかゆみを伴う丘疹(皮膚の盛り上がり)や小結節(小さなしこり、塊)が発生する病気です。体中に散らばって現れる場合もあれば、すねやお腹など特定の部位にのみ現れる場合もあります。
痒疹(ようしん)は湿疹三角に従って症状が変わる湿疹とは経過が異なり、虫刺されや白血病、悪性リンパ腫などの全身疾患、妊娠を契機に起こるなど、原因は様々。はっきりしないことも多いようです。なお、湿疹を掻き壊したり、放置したり、誤った処置をしたりすると、痒疹(ようしん)になることもあります。
痒疹(ようしん)は治りにくく、繰り返すことも多いため、医療機関で強力なステロイド薬の処方や、光線療法、液体窒素による冷凍凝固療法などを受けなければなりません。
5.湿疹の治療法
上記のような皮膚トラブルは、適切な処置を怠ると悪化することもあります。正しい対処のために、湿疹のセルフケア方法と、医療機関を受診するタイミングを紹介します。
市販薬でセルフケア
湿疹を市販薬でセルフケアする場合、症状や年齢、使用する部位に適した強さのステロイド外用薬(塗り薬)を使いましょう。どのステロイド外用薬がいいかわからない場合は、薬剤師や登録販売者に相談してください。
ステロイド外用薬は用法・用量を守って正しく使用しましょう。正常な皮膚にまで塗り広げたり、必要以上に長く使い続けたりすると、皮膚が萎縮して薄くなるなどの副作用のリスクが生じます。患部に局所的に、適量をこすらず塗ることがポイントです。
医療機関を受診する
症状に不安がある場合や、市販薬を使ってもよくならない場合は、皮膚科専門医を受診しましょう。受診の際、湿疹の起きたタイミングや原因と思われる物質、症状の経過を撮影した写真などがあると、診断がスムーズになることもあります。
6.湿疹の予防法
最後に、今すぐできる湿疹の予防法を紹介します。
原因物質を避ける
湿疹は皮膚に刺激物が触れて起きることがほとんどです。そのため、原因となる物質に触れるのは極力避けましょう。どうしても原因物質に近づかなければならない場合は、肌に直接触れないよう、長袖、長ズボン、手袋やバリアクリームなどを活用してください。
保湿
年齢や体質、疾患により皮膚が乾燥してバリア機能が低下していると、湿疹を起こしやすくなります。肌への刺激が少ないクリームや薬用ジェルを塗って保湿し、皮膚のバリア機能を保ちましょう。
7.原因物質を避けて、湿疹を予防しよう
湿疹は刺激物や抗原物質に直接触れないことで予防できます。もしも湿疹が起きてしまったら、皮膚科で診断を受け、適切な薬を処方してもらいましょう。
初期の湿疹は市販のステロイド外用薬を使ったセルフケアも可能です。ただし、なかなか治らない場合や症状が強い場合は、色素沈着として痕が残るケースもあるため、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。