夏場や高温多湿の環境下で特に注意が必要な熱中症は、命にかかわることもある病状です。本記事では、熱中症になった時にすぐできる応急処置や、病院へ行くかどうかの見極め方を解説します。さらに熱中症を起こさないための予防方法についても詳しく紹介します。
1.熱中症になったら命にかかわる危険性も
一般的には「暑い日に注意が必要」と考えられがちな熱中症。しかし、実は高温多湿下などの環境要因のほか、年齢やその時の体調など、さまざまな要因が複雑に関係しあって起こる病状です。そのため、夏以外の季節でも起こり得るうえに、気づかないうちに熱中症にかかっているケースも少なくありません。普段から屋外で仕事をしている人や、体力に自信がある人も油断は禁物です。
もしも熱中症になっていた場合、医療機関への搬送が遅れ症状が進行すると、意識障害など命を脅かす重篤な症状が出現することも。少しでも体調がおかしいと感じたら、救急搬送が必要であることを理解しておきましょう。
2.【重症度別】熱中症の症状
熱中症になった場合の症状は、軽症、中等症、重症に分けられます。重症度別に、代表的な症状を紹介します。
なお今回は、Japan Coma Scale(ジャパン・コーマ・スケール)という日本の医療現場で使われることの多い評価分類スケールを用いて、意識障害の程度を紹介します。
Ⅰ 刺激せずとも覚醒している状態 | |
1 | だいたい意識清明ではあるが、今ひとつはっきりしない |
2 | 見当識障害(現在の時刻や場所、周りの人を正しく認識できない)がある |
3 | 自分の名前や生年月日が言えない |
Ⅱ 刺激すると覚醒するが、刺激をやめると眠り込む | |
10 | 普通の呼びかけで容易に開眼する |
20 | 大きな声の呼びかけ、体の揺さぶりにより開眼する |
30 | 痛み刺激を加えつつ、繰り返し呼びかけるとかろうじて開眼する |
Ⅲ 刺激をしても覚醒しない | |
100 | 痛み刺激を与えると、払いのけるような動作が見られる |
200 | 痛み刺激を与えると、手足の動きや顔をしかめる様子が見られる |
300 | 痛み刺激に反応しない |
軽症
意識障害のない軽度な熱中症です。下記の症状が現れたら直ちに応急処置を行いましょう。症状が改善しているようならば、現場での応急処置と見守りで構いませんが、悪化するようならばすぐに医療機関を受診しましょう。
めまい、立ちくらみ
脳への血流が瞬間的に不十分になってしまうことで、めまいや立ちくらみが起こります。熱中症によるめまいや立ちくらみは「熱失神」とも呼ばれます。
筋肉痛や筋肉の硬直・痙攣(けいれん)
熱中症では、発汗に伴い、血液中の塩分(ナトリウム)濃度が低下します。これにより起こるのが、筋肉痛や筋肉の硬直・痙攣(けいれん)です。こむら返り(ふくらはぎの筋肉が異常に収縮し、痙攣すること)を起こすこともあり、熱中症に伴うこれらの筋肉症状は「熱痙攣(ねつけいれん)」とも呼ばれます。
大量の発汗
熱中症の初期症状として、体が体温を下げようとして大量の汗を出す症状も見られます。大量の発汗により脱水が進むため、早期に適切な処置をしなければ症状が悪化してしまうおそれもあります。
中等症
意識ははっきりしていても、次の症状が見られた場合はすぐに医療機関を受診しましょう。なお、自分で水分や塩分補給ができない場合も、中等症に含みます。
頭痛、全身の倦怠感(だるさ)・脱力、嘔吐・下痢など
頭痛や気分の悪さ、吐き気なども中等症の症状に含まれます。熱中症に伴うこれらの症状は「熱疲労(ねつひろう)」とも呼ばれます。
これらは皮膚表面の血流が増加した場合や、発汗により脱水状態になった場合に見られる症状です。臓器へ送られる血液が減り、消化器や脳、筋肉などの機能が低下することによって起こります。
集中力・判断力の低下
意識レベルはJCS≦1でも、周囲の人が「何かおかしい」「普段と違う」と感じたら、医療機関を受診しましょう。意識があっても、脳血流の低下が疑われるためです。
重症
「熱射病」や「重度の日射病」と呼ばれ、すぐに医療機関を受診しなければならない状態です。重症かどうかは救急隊員や医師が判断しますが、入院が必要となります。場合によっては集中治療が必要になることもある、大変危ない状態です。
意識障害・痙攣・手足の運動低下
重症では、脳血流の低下や脳内の温度が上昇したことで、脳機能不全による症状が見られます。
時間や場所がわからなくなる見当識(けんとうしき)障害がある場合(JCS≧2)は、重症に分類され、早急な入院治療が必要です。まっすぐ歩けない、立ち上がれないなどの小脳症状が出現することもあります。
高体温
熱中症の症状が悪化すると、脳の体温調節中枢の障害により、高体温となります。体の表面が熱い場合は高体温を疑われるため、周囲の人の判断ですぐに救急車を呼ぶか、医療機関へ搬送しましょう。
3.熱中症になった時の応急処置
熱中症になってしまった場合、症状が軽度であればまずは応急処置をして様子を見ましょう。なかなか症状が改善しない場合や、悪化した場合はすぐに医療機関を受診してください。
まずは涼しい場所へ移動
熱中症を起こした環境からはすぐに離れましょう。高温下にいる場合は、すぐに気温の低い場所へ移動してください。クーラーの効いた室内が望ましいですが、近くにない場合は風通しの良い日陰などでも構いません。
体の表面を冷やす
体内に熱がたまった状態が続くと、脳や臓器の機能不全につながります。涼しい場所に移動したら、体内の熱の放出を助けるための処置を行いましょう。
まずは衣服を緩めます。その後、氷枕や保冷剤、冷えたペットボトルなどで、体の表面に大きな静脈のある首、わきの下、太ももの付け根などを冷やしてください。太い血管が流れる場所を集中的に冷やすことで、効率よく体温を下げることができます。また、霧吹きや濡れタオルを使って皮膚を濡らし、うちわやタオルなどであおぐことも効果的です。
熱中症になってしまったら、なるべく早く深部体温(脳や臓器など体の内部の温度)を下げることを意識しましょう。
水分・塩分補給
熱中症では発汗により、大量の水分と塩分が体内から失われます。意識がはっきりしている場合は、水分と塩分を自力で補給してもらいましょう。水分と塩分(ナトリウム)を同時に補給できる経口補水液やスポーツドリンクがあればそれを、なければ水1Lに食塩1~2gを溶かした食塩水を飲ませてください。
もし吐き出してしまう場合は無理に飲ませないようにしましょう。臓器の血流減少による機能低下が疑われ、病院での点滴が必要となるため、すぐに医療機関を受診しましょう。
なお意識障害がある場合も、無理に水分を飲ませようとしないでください。気道に水が流れ込む恐れがあるためです。熱中症による意識障害が見られる場合は、すぐに救急へ連絡しましょう。
4.熱中症にならないためには?心がけたい予防法
熱中症は屋外や炎天下だけでなく、空調の弱い屋内でも発症するリスクがあります。しっかり対策して熱中症を予防しましょう。
暑さ対策
外出時は日陰を歩く、帽子や日傘を活用するなどの対策が効果的です。服装も通気性の高い綿や麻素材、襟ぐりや袖口のあいている熱がこもりにくいデザインのものを選ぶと良いでしょう。
家の中の暑さ対策も忘れてはいけません。ブラインドやすだれを使って、直射日光を遮りましょう。夏場の暑さ対策として、エアコンの使用は推奨されますが、冷やし過ぎには注意が必要です。
また、日ごろから運動などで汗をかき、ある程度の暑さや発汗に体を慣らしておくことも大切です。ただし、急に気温が上がった日などは体が対応できない恐れがあるため、要注意。極力外出を控えるなど、適切に対応しましょう。
こまめな水分補給
体内の水分や塩分が失われることにより、さまざまな症状が出現する熱中症。のどが渇いていなくても、定期的に水分補給をすることで、熱中症を予防できます。特に高齢の人は自覚症状がないことも多いため、注意が必要です。
水で水分補給しても構いませんが、1リットルの水に対して1~2グラムの食塩を加えた食塩水、スポーツ飲料などの方が望ましいとされています。一方、カフェインを含むお茶やコーヒー、アルコール飲料は利尿作用があるため、水分補給にはあまり適していません。
5.周囲の人の判断が重要!熱中症は早期に適切な対処を
命を脅かすおそれもある、熱中症。熱中症の予防には日ごろの暑さ対策と、こまめな水分補給が重要です。もしも熱中症になってしまったら、軽症ならば涼しい場所で体を冷やすなどの応急処置をして、様子を見ましょう。ただし「何かおかしい」と感じたら、すぐに医療機関を受診してください。