体は疲れて眠気もあるのになぜか眠りにつけない……そんな寝つきの悪さに悩まされている人は少なくないでしょう。
厚生労働省の調査(参考:令和元年「国民健康・栄養調査」P28)によれば、睡眠の質に対し「睡眠全体の質に満足できなかった」人の割合は男性21.6%、女性22.0%、「寝つきにいつもより時間がかかった」人の割合は男性10.6%、女性16.8%となり、睡眠に不満を持つ人が多いことが明らかになっています。
寝つきが悪くなる原因は様々ですが、なかには「不眠症」という病気が原因となっていることもあります。このような病気が原因の場合は適切な対処をしなければ体調不良につながることもあります。
そこで今回は、寝つきが悪くなる原因と改善策について詳しく解説します。
1.寝つきが悪くなってしまう原因
寝つきが悪くなる原因は、心身の不調や環境など多岐にわたります。
室温や湿度が体に合わない、騒音などの環境的な要因は改善しやすいですが、心身の不調は気づかないうちに進行し悪化するケースがあり、改善が難しいものです。
そこでまずは、寝つきを悪くする心身の不調にはどのようなものがあるのか詳しく見ていきましょう。
生活習慣の影響
私たちの体には「体内時計」という仕組みが備わっています。体内時計が正常に機能することで朝になると目が覚め、夜になると自然に眠くなるリズムができあがっているのです。
しかし、夜型の生活になるなど生活リズムが乱れた状態が続くと体内時計のリズムが狂ってしまい、夜の寝つきが悪くなります。
また、覚醒作用があるニコチンやカフェインの過剰な摂取、スマホやタブレット端末から放たれるブルーライトの浴び過ぎなども、スムーズな寝つきの妨げになります。
ストレスの影響
ストレスが強くなると自律神経の一つである交感神経が優位になります。
交感神経と副交感神経はお互いにバランスを取り合って体の様々な機能を整えていますが、ストレスなどが原因でバランスが乱れると不調の原因につながります。
特にストレスによって交感神経が優位に働くようになると緊張や不安などが高まり、脳が覚醒することで寝つきが悪くなります。寝つきの悪さがストレスを高め、さらに寝つきが悪くなるという悪循環に陥ってしまう恐れもあります。
心の問題
不安や気分の落ち込みは、上述した自律神経の乱れにつながってリラックスしにくくなるため、快適な睡眠の妨げになります。寝つきの悪さだけでなく、夜中や早朝に目覚めてしまうことで睡眠不足になることもあります。
また、精神的な病気は睡眠の質を悪くすることが多く「寝つきの悪さがうつ病などの症状だった」というケースも珍しくありません。
気分の変調と寝つきの悪さに悩まされている人は、医師の診察を受けることも検討しましょう。
病気からくるもの
寝つきの良し悪しは体のコンディションと密接に関係し、病気が寝つきの悪さを引き起こすこともあります。
【寝つきが悪くなる具体的な病気】
- 心不全や気管支喘息:横になったときに息苦しさを引き起こす
- アトピー性皮膚炎や慢性蕁麻疹:皮膚のかゆみを引き起こす
- 関節リウマチ:慢性的な痛みを引き起こす
寝つきの悪さが続く人は、上記のような病気が原因かもしれません。状態がなかなか改善されない場合、放置せずに病気の可能性も考慮しましょう。
2.寝つきが悪い。「不眠症」の可能性も?
寝つきの悪さが継続する場合「不眠症」の恐れもあります。
不眠症とは、寝つきの悪さはもとより、睡眠時間が短くなる・朝早く目が覚めるなどの睡眠問題が1ヵ月以上続き、日中の生活や活動に倦怠感・意欲低下などの支障が出る病気です。
不眠症には様々なタイプがありますが、それぞれどのような特徴なのか詳しく見てみましょう。
不眠症の種類
不眠症は次の4つのタイプに分けられます。
- 入眠障害:寝つきが悪い
- 中途覚醒:夜中に何度も目が覚めてなかなか寝つけなくなる
- 早朝覚醒:予定よりも2時間以上早く目が覚めてしまう
- 熟眠障害:睡眠時間は十分なのに疲れや眠気が取れない
不眠症は、単に睡眠時間が短くなる病気ではありません。たとえ睡眠時間が人より短くても、日中の活動に支障がなければ不眠症ではないのです。一方、人より多く睡眠時間を確保しても夜中に何度も起きたり、疲れがしっかり取れなかったりした場合は不眠症と考えられます。
不眠症は放っておくと心身の負担につながり、心臓や脳の病気のリスクを高めることが報告されています。さらに日中の眠気で集中力が低下すると、思わぬ事故を招くことも考えられます。
上述した4つのタイプの不眠症の症状で思い当たるものがある人は、医師に相談することも検討してください。
3.寝つき・睡眠に「腸内環境」が関係する!?
寝つきの悪さは様々な原因によって引き起こされますが、近年の研究では「腸内環境」の状態が影響するとの報告もあります(参考: 筑波大学 慶應義塾大学 )。
一見、睡眠と腸内環境はまったく関係ないように思われるかも知れませんが、実は睡眠を誘うホルモンは腸内環境の状態によって作られやすくなったり、作られにくくなったりすることがわかっています。
寝つきや睡眠、腸内環境の関係について詳しく見てみましょう。
睡眠ホルモン「メラトニン」とは?
私たちが夜になると眠くなるのは脳の松果体(しょうかたい)と呼ばれるところから「メラトニン」の分泌が始まるからです。メラトニンの分泌が始まる時間は体内時計が調節していますが、朝になって太陽の光を浴びると分泌がストップされ目が覚める仕組みが備わっています。
「メラトニン」の90%以上は腸で作られる!
快適な寝つきのために必要なメラトニンの90%以上は、腸で作られることが分かっています。
メラトニンの原料は、タンパク質に含まれるトリプトファンという成分です。食事から摂り入れたタンパク質が腸で分解されトリプトファンになり、さらにトリプトファンからセロトニンが作られて脳に送られるとメラトニンが分泌されるようになります。
腸内細菌が多く、善玉菌の割合が高い腸内環境になるとトリプトファンやセロトニンの生成が活発になるためメラトニンの分泌量も多くなります。
結果として寝つきの改善につながると考えられています。
4.寝つきが悪い時の対処法
寝つきの悪さを引き起こす原因は多岐にわたります。寝つきを改善するには、その原因を解決することが大切です。
寝つきの悪さに悩まされている人は、次のような対策をしてみましょう。
腸内環境を整える
眠気を誘う睡眠ホルモン「メラトニン」は腸内環境がよい状態になると、分泌が盛んになります。原因がはっきりわからない寝つきの悪さに悩まされている人は、腸内環境を整えてみましょう。
腸内環境を整えるには、善玉菌の割合を高めることが大切です。善玉菌はオリゴ糖や食物繊維を多く摂ることで増えていきます。また、適度な運動や規則正しい生活を送ることで便秘を予防することも腸内環境を整えるために必要です。
体内時計を整え、睡眠時間にこだわらない
夜更かしや遅起きは体内時計のリズムを乱すことがあります。週末や休日も、できるだけ普段と変わらない就寝・起床のリズムを維持しましょう。
また、必要な睡眠時間には大きな個人差があります。長さにこだわらず、寝つきがよく朝まで熟睡できる睡眠が理想です。寝つきが悪く、なかなか眠れないときは、無理に眠りにつこうとせずに読書などをして自然と眠くなるのを待つのも一つの方法です。
適度な運動
適度な運動は肉体的疲労につながります。私たちの体には、肉体的疲労がたまると睡眠欲求が引き起こされる仕組みが備わっています。
快適な寝つきには適度な運動をすることも必要です。ただし、短時間の集中的な激しい運動は筋肉痛などを招き、かえって寝つきの妨げになることもあります。体に負担が少ないウォーキングなどの有酸素運動を取り入れるようにしましょう。
太陽光を浴びる
太陽の光には、睡眠中に分泌されるメラトニンの分泌をストップさせて体内時計をリセットする働きがあります。起床時に太陽の光を浴びないと体内時計がリセットされないため、睡眠リズムが乱れがちになります。
夜に自然と眠気が生じるための準備は朝から始まっています。起床したらカーテンを開けて太陽の光を浴びるようにしましょう。
リラックスできる時間を設ける
スムーズな入眠のためには、就寝前に体を休める働きのある副交感神経を活性化させることも大切です。副交感神経は、くつろいだり心身がリラックスしたりするときに働きます。読書やストレッチ、入浴など自分にとってリラックスできる時間を作るようにしましょう。
ただし、就寝前の飲酒によるリラックスには注意が必要です。飲酒は眠気を催しますが、アルコールが分解されて生成されるアセトアルデヒドには眠りを浅くする作用があります。寝つきが改善したとしても眠りの質が悪くなるため、飲み過ぎには注意してください。
5.寝つきの悪さは放置せず、適切に対応しましょう
寝つきの悪さは、体や心の病気、ストレス、生活習慣の乱れ、腸内環境の悪化など様々な原因によって引き起こされます。軽い症状だと思われがちですが、寝つきが悪い状態が続くと心身に負担を引き起こして病気のきっかけとなることも少なくありません。
寝つきの悪さに悩まされている人は、今回ご紹介した対処法を試してみましょう。それでも改善しない場合は不眠症という病気の可能性がありますので、医師に相談することも検討してください。